修理道～達人までの道のり～　VOL.6 　ピエゾピックアップ取り付け編

みなさん、こんにちは。吉山の部屋へようこそ。

今回は、「ピエゾピックアップ取り付け編」をお送りいたします。

普段から良く当店をご利用いただいているお客様から、お持ち込みいただきました。

ここのところ割とヘビーな内容が続いていたので、今回は比較的「ライト」に感じます。

しかし、その油断こそが大きな失敗につながりますので、緊張感をもって取りかかりましょう。

 

 

 

上記で「ヘビーな内容」と書きましたが、実はこれ大事なんです。

「修理道」などと銘打って記事を連載的に書いておりますが、その修理において大事な事とは、

「挑戦すること、実機で体感すること」だと私は思っています。仮にヘビーな内容であっても

出来る体験は全て体験する、いや、体感する。挑戦する。難易度が高ければ高いほど

成長出来るチャンスがあります。

 

もちろん、「イチかバチか、やったろか！」というギャンブル的発想ではなく、

「最悪の展開になったら、ここでストップして、こういったリカバリーをする」という決め事が

あるのが大前提になりますが、もともと修理技術の習得には必ず「リスク」が付きものです。

そして、スキルの一つとして「感覚を身に付ける」、要するに慣れていくことが大事だと私は

考えています。

クラフト系の専門学校を卒業されて、楽器生産工程の現場へ入られた方は

これまで自身が学んできた環境と同等の条件で、進んでいけますが、

お客様からお預かりした楽器を修理するような工房に配属された方は

「全く出来ない」・・・・という事が良くあります。

もともと、クラフトと修理は別物ですが、それでも全くの素人よりかは

内容を理解しており、取扱い方法は知っているはずです。

しかし、学校で練習していたのは「練習用の題材」で、お客様持ち込みの楽器とは

また違ってきます。つまり、ここが重要です。

「練習台では気軽に出来たのに、お客様お預かり分となると少し構えてしまう。」

だが、経験値を積まなければ永遠に前に進めない。

ここで、「リスク」が発生します。

 

 

 

修理に必要なものは、大まかに「技術、知識、経験」の3大要素がありますが、

技術と知識だけでは実践は難しいと思います。

 

技術とは・・・何かを切る、削る、接着する、などの作業や指先を動かす正確さ。など。

知識とは・・・工具や治具の存在、正しい使い方を知っていること。パーツや電子回路の

仕組みを知っている事。など。

経験とは・・・力の入れ方、角度、などを感覚で身に付けている。「A」という作業をする為に

どういったアプローチを行うか？の知恵が自身で出せる事、そしてそれらが物の状態によって

変化する事を知っている。など。

 

 

例えば、お客様から預かったギターを修理している最中に、万が一壊してしまったら？

と考えれば、最初は少なからずビビリます・・・・・・

そのギターが30万、50万、100万するギターだったら？

ドリル等を使って穴を開けたりする内容だったら？

そのギターが世界に1本しかないギターだったら？

 

 

やっぱりどんなベテランでも最低限の緊張感をもって取り組むはずです。

では、ビギナーはいつになったら経験値を積む事が出来るのか？

「今で・・・」・・・・・・・・・・失礼。やめておきます。

そうです。ここが重要なんですね。

必ず、どこかでリスクを払って挑んでいかなければ、

「緊張感の中で正確な作業を行う事に慣れない。」

そして、リスク無くして得るものは価値が薄い。とも考えています。

 

お客様お預かり品と、これまでトレーニングで扱って来たギターの作業クオリティが変わるのは

おかしいです。「練習は試合のように、試合は練習のように」です。

ということは、「練習と実践におけるギャップを無くすトレーニング」が必要なんです。

何度もお客様のギターを扱っていくうちに、落ち着いて、適度の緊張感で

作業を行えるようになります。ですので、ギャップを無くすトレーニングとは、

一番効果的なのは「回数をこなす事」です。つまり、「慣れろ」です。

最近は、「体で覚えろ」や「失敗から学べ」とかあまり聞かなくなってきていますね。

・・・・・・‟ゆとり”って奴ですかね。

ひと昔の職人気質の方は、そうだったように思います。確かに、教え方に「雑さ」「粗さ」は

あるかもしれませんが、得るものも大きいように思いますし、愛情も感じます。

しかも何より、覚えるスピードが速いですし、しっかり刻み込まれるので忘れません。

 

その時は「怖い」「うるさい」「嫌い」と思っていても、5年後、10年後に「恩人」と

思えるようになります。ふとした時に、無性に会いたくなります。

「自分の事はどう思われてもいい。一番、相手の為になる方法で教えよう」

世の達人は、それを分かってやっているんですね。

・・・・全く修理内容に触れておりませんでしたが、ストラップピンジャックを通す為に、ドリルで

穴を広げます。そのための「穴埋め」が終わったところです。穴の位置がずれているのは・・・

最初からでした。（フーッ、リスクリスク　汗）

いつも使っている、ルーターが調子悪く、上手く切れませんでしたので・・・・・・

隣の部屋の住人である、ハイブランド、貴金属担当の「上野」の元へ駆け込み、

ルーターを拝借。・・・・・・ふーん、随分と立派なルーターをお使いだ。

静かな動作音、程よい重量感で安定したグリップ、そして空回りすることなどなく、

あっと言う間に対象物を切断してしまう、見事な回転能力・・・・・・・・。

 

 

まぁ、良し。いつか見ていなさい。楽器部門もいつか、市民権を得て・・・・・・

失礼しました。少々、心の声が漏れてしまいました。

話を戻します。

ドリルで穴を広げて、

ストラップピン分の穴が空きました。

ストラップピンジャックをワッシャーで締め込み、

キャップを付けて完成です。

ブリッジにピックアップが通る程度の穴を開けて、ピエゾピックアップを装着。

その後、ピックアップの厚み分、サドルを削り、高さ調整して完成です。

 

今回の「ピエゾピックアップ取り付け編」は比較的ライトな内容ですが、

冒頭でも申しました通り、適度の緊張感をもって挑まなければ、すぐ隣には

「リスク」が存在します。ギターの破損以外にも、ケガや事故もありえます。

 

当然、この「ピエゾ取り付け作業」も初めてやる時がありました。

その時は、隣に付き添ってくれる方がいたので、今でこそ「ライト」などと

言えるぐらいにはなりましたが、その時は、汗びっしょりでしたね・・・

確か、初めてドリルで穴を開けたのはMARTINだったと記憶しております。（お客様のギター）

 

リスクを抱えて挑むという背景には、「大先輩のサポート」という保証が無ければ、

なかなか難しいです。いつか自身もサポートする立場に立てるよう

日々精進していきたいと思います。