2009年公開のアメリカ映画「シングルマン」

こんにちは、ブックオフ福岡倉庫の山田です。

今日紹介するのは2009年公開のアメリカ映画「シングルマン」です。

この映画はトム・フォードという人物が監督しているのですが、
実は彼は元々映画監督ではなく、
自らの名前を冠したファッションブランドで大きな成功を築き上げてきた人物なのです。

彼はこの映画で脚本も務めているのですが、
物語そのものは彼オリジナルのものではありません。
原作はクリストファー・イジャーウッドという作家が書いた同名小説であり、
トム・フォードは20代前半にこの原作を読んで以来ずっとこの物語の虜だったそうです。

そんな彼が40代後半になって映画化したこの作品。
それは皮肉にも彼が歩んできたキャリア、
そして彼のアイデンティティと大きく重なる今の彼そのものを投影するものでした。

この物語の舞台は1962年のロサンゼルス。
8か月前にゲイの恋人ジムを事故で亡くした大学教授ジョージは人生に意味を見出せなくなり、
「最後の一日」を生きた後に自殺をすることを決意します。

死ぬことを覚悟に生きる「最後の一日」。
しかし最後である事を意識してみると、
今まで当たり前のように存在していたものが今日に限って新鮮に、
そして愛おしく思えるのでした。

最後の大学の授業では自分が宿題にしてきた本を冗談交じりに茶化す生徒達に対して、
一歩踏み込んだ自分の意見を伝えようとします。
彼はこう言いました。

少数派の話をしよう。
特に隠れた少数派についての話だ。
勿論少数派にはたくさんの種類がある。
だが問題は世間から脅威と見なされる少数派だ。
例えその脅威が妄想であったとしても
そこに恐怖が生まれる
そして実体が見えないと
更に恐怖は増す。
それで迫害されるんだ。
彼ら少数派もまた普通の人間なのにね。

そして彼は教室を後にします。

その後昔の恋人であり今は友人であるチャーリーと夕食を共にします。
夫とも離婚し子供達も巣立った彼女はジョージ同様独り身で、
彼女はジョージと復縁することを強く望みます。
しかしジョージにとって死に別れたジムは何者にも代え難い存在であり、
彼女と共に生きる未来は想像出来ないのでした。

その後改めて彼は自殺を決意するのですが、
死ぬ直前にジムと出会ったバーのことを思い出し彼はバーへと向かいます。
そこで彼の大学の学生の一人であるケニーと出会うことで、
彼の心境に再び変化が訪れます。

大学教授という職に就き富も名声もある男ジョージ。
しかし彼は最愛の恋人が亡くなったことで生きる心の支えを失い、
自殺を決意するまでに追い詰められます。
それは彼がゲイというマイノリティな存在であるということが大きく関係しているでしょう。

実は原作を書いたクリストファー・イジャウッドも、
そしてそれを映画化したトム・フォードもゲイなのです。
彼らもまた自らの仕事で大きな成功を収めながらも、
この物語でマイノリティであることの孤独を描こうとしました。

何もかも満たされた人間が何故自殺をと思われる方もいるかもしれません。
しかしこの映画を見れば分かるのですが、
ジョージの身の回りにある豪華な家、高価なスーツや車。
それらは彼の孤独を解決することに関しては何の役にも立っていないのです。

そしてこの物語の舞台は60年代。
この時代のアメリカはまだまだ同性愛に関しては寛容ではなかったはずです。
アメリカに住むイギリス人、
そしてゲイであるジョージはひどく孤独を感じていたでしょう。
だからこそ彼にとって、
ジムという存在は自分のマイノリティを共有することの出来る何者にも代え難いかけがえのない存在だったはずです。

このマイノリティというのは何もゲイに限った話ではありません。
私達人間は誰しも社会で暮らす上で何かしら自分の中のマイノリティな部分を感じ、
それに思い悩むことがあると思うんです。

そしてそんな自分の分かってもらえないと思っていた部分を理解してもらった時、
その人物は自分にとってかけがいのない存在になるのではないのでしょうか。

物語においてジョージの変化が読み取れるのは役者の演技だけではありません。
実はこの映画、画面の色彩がジョージの心情を反映させたものになっており、
絶望している時は暗い画面、心が晴れる時は明るい画面と非常に映画的な演出を生み出すことに成功しています。

この物語は事故で亡くなったジムにジョージが別れを告げる暗いトーンの画面から始まるのですが、
彼が人々、動物と接し、
そこに美しさを見出した時に画面の色彩が暖かくなります。
つまり彼は誰かとつながることでマイノリティの呪縛から解放されていくのです。
ジョージはケニーとの会話でこんなことを言っています。

人生が価値を得るのはごく数回他人との真の関係を築けた時だけだ。

この映画は最後少し意外な展開を見せるのですが、
私はこれはトム・フォードから私達への一種の警告だと解釈しています。
人生には予期せぬことが必ず起こる。
だからこそ一瞬一瞬を後悔のないように大切に生きることが重要なのだと。

最後にこの映画に出演したキャスト達を紹介させて下さい。
大学教授ジョージを演じたのはコリン・ファースという俳優で、
彼は「英国王のスピーチ」という映画で第83回アカデミー主演男優賞を受賞しています。
彼は他にも「高慢と偏見」、「ブリジット・ジョーンズの日記シリーズ」（第三弾が今年10月に日本でも公開されます）、「キングスマン」と様々なジャンルの映画に出演している非常に実力のある俳優です。

そしてジョージの友人チャーリーを演じているのがジュリアン・ムーアという俳優であり、
彼女もまた「アリスのままで」という映画で第87回アカデミー賞を受賞しています。
彼女は他にも「ブギーナイツ」、「エデンの彼方に」、「ハンガーゲームシリーズ」などコリン・ファース同様様々なジャンルに出演し評価されている俳優です。

そして噂ではこの二人、「キングスマン２」という映画で再共演する噂があるのだとか。
今から私もとても楽しみにしています。

最後まで読んで下さりありがとうございました。
この「シングルマン」という映画は既にDVD、Blue-Rayで鑑賞することが出来ます。
是非チェックしてみてください。